カーボンニュートラルな次世代エネルギー「水素」についてご紹介します。水素は「グリーン水素」「ブルー水素」「グレー水素」の3種類に分けられ、それぞれ製造方法が異なります。それぞれの製造方法、元素としての物性、貯蔵・輸送方法、利用方法について解説します。そして、なぜ水素が次世代の主力エネルギーなのかについてもご紹介します。
水の電気分解によるグリーン水素の生成
水素を使う場合、とにかく「水素を生成する」ことが重要です。最も簡単な方法は「水を電気分解する」ことです。小学校の理科で習ったかもしれませんね。ビーカーに水を入れ、電極を水中に置きます。電池を電極に接続して通電すると、水と各電極の中で以下の反応が起こります。
陰極ではH+と電子が結合して水素ガスが発生し、陽極では酸素が発生します。この方法は学校の理科実験には適していますが、工業的に水素を製造するには、大規模生産に適した効率的なメカニズムを構築する必要があります。それが「高分子電解質膜(PEM)電気分解」です。
この方法では、水素イオンを透過する高分子半透膜を陽極と陰極の間に挟みます。装置の陽極に水を注ぐと、電気分解によって生成された水素イオンが半透膜を通過して陰極に移動し、そこで分子状水素になります。一方、酸素イオンは半透膜を通過できず、陽極で酸素分子になります。
アルカリ水電解では、陽極と陰極を水酸化物イオンのみが通過できるセパレーターで分離することで、水素と酸素を生成します。また、高温蒸気電解などの工業的な方法もあります。
これらのプロセスを大規模に行うことで、大量の水素を得ることができます。その過程で相当量の酸素も生成されます(生成される水素の半分の量)。そのため、大気中に放出されても環境への悪影響はありません。しかし、電気分解には大量の電力が必要となるため、風力タービンや太陽光パネルなど、化石燃料を使用しない電力で製造すれば、カーボンフリーの水素を製造できます。
クリーンなエネルギーを使って水を電気分解することで「グリーン水素」を得ることができます。
このグリーン水素を大規模に製造するための水素生成装置も備えています。電解槽部にPEMを使用することで、水素を連続的に製造することができます。
化石燃料から作られるブルー水素
では、水素を作る他の方法にはどのようなものがあるでしょうか?水素は、天然ガスや石炭などの化石燃料の中に、水以外の物質として存在します。例えば、天然ガスの主成分であるメタン(CH4)を考えてみましょう。ここには4つの水素原子があります。この水素を取り出すことで水素を得ることができます。
その一つが、水蒸気を用いる「水蒸気メタン改質」と呼ばれるプロセスです。この方法の化学式は以下の通りです。
ご覧のとおり、メタン分子 1 つから一酸化炭素と水素を抽出できます。
このように、天然ガスや石炭を「水蒸気改質」や「熱分解」といったプロセスで水素を製造することができます。「ブルー水素」とは、このようにして製造された水素のことです。
しかし、この場合、一酸化炭素と二酸化炭素が副産物として発生します。そのため、大気中に放出される前にリサイクルする必要があります。副産物の二酸化炭素は回収されない場合、「グレー水素」と呼ばれる水素ガスになります。
水素はどんな元素ですか?
水素は原子番号1で、周期表の最初の元素です。
宇宙で最も多くの原子が存在し、宇宙の全元素の約90%を占めています。陽子と電子からなる最小の原子は水素原子です。
水素には、原子核に中性子が結合した2つの同位体があります。1つは中性子と結合した「重水素」、もう1つは中性子と結合した「三重水素」です。これらも核融合発電の原料となります。
太陽のような星の内部では、水素からヘリウムへの核融合が起こっており、それが星が輝くエネルギー源となっています。
しかし、地球上で水素が気体として存在するのは稀です。水素は水、メタン、アンモニア、エタノールといった他の元素と化合物を形成します。水素は軽い元素であるため、温度が上昇すると水素分子の移動速度が増し、地球の重力から宇宙空間へと逃げていきます。
水素をどう使う?燃焼による利用
では、次世代エネルギーとして世界的に注目されている「水素」はどのように利用されているのでしょうか?その利用方法は大きく分けて「燃焼」と「燃料電池」の2つです。まずは「燃焼」について見ていきましょう。
燃焼には主に2つの種類があります。
一つ目はロケット燃料としてです。日本のH-IIAロケットは、極低温状態の水素ガス「液体水素」と「液体酸素」を燃料として用います。この二つを複合させ、その際に発生する熱エネルギーで生成した水分子の噴射を加速させ、宇宙空間へ飛ばします。しかし、技術的に難しいエンジンであるため、日本以外では、米国、欧州、ロシア、中国、インドのみがこの燃料の複合化に成功しています。
2つ目は発電です。ガスタービン発電も水素と酸素を結合させて発電する方法です。つまり、水素の熱エネルギーを利用する方法です。火力発電所では、石炭、石油、天然ガスを燃焼させて蒸気を発生させ、その熱でタービンを回します。水素を熱源として利用すれば、発電所はカーボンニュートラルになります。
水素をどう使う?燃料電池として活用
水素のもう一つの利用方法は、水素を直接電気に変換する燃料電池です。特にトヨタは、地球温暖化対策の一環として、ガソリン車に代わる電気自動車(EV)ではなく、水素燃料車を積極的に推進し、日本国内で注目を集めています。
具体的には、「グリーン水素」の製造方法をご紹介する際には、逆の手順で製造しています。化学式は以下の通りです。
水素は発電と同時に水(温水または蒸気)を生成できるため、環境に負荷をかけないという点でも評価できます。一方で、この方法は発電効率が30~40%と比較的低く、触媒として白金が必要となるためコスト増につながります。
現在、固体高分子型燃料電池(PEFC)とリン酸型燃料電池(PAFC)が採用されています。特に燃料電池自動車にはPEFCが搭載されており、今後の普及が期待できます。
水素の貯蔵と輸送は安全ですか?
ここまでで、水素ガスがどのように作られ、どのように使われるのかご理解いただけたかと思います。では、この水素はどのように貯蔵するのでしょうか?必要な場所にどうやって届けるのでしょうか?その際のセキュリティはどうでしょうか?ご説明いたします。
実は、水素は非常に危険な元素でもあります。20世紀初頭には、水素は非常に軽いため、気球や飛行船を空に浮かべるためのガスとして利用されていました。しかし、1937年5月6日、アメリカ合衆国ニュージャージー州で「飛行船ヒンデンブルク号爆発事故」が発生しました。
この事故以来、水素ガスの危険性は広く認識されています。特に引火すると酸素と反応して激しく爆発するため、「酸素から遠ざける」または「熱から遠ざける」ことが不可欠です。
これらの対策を講じた上で、配送方法を考案しました。
水素は常温では気体なので、気体とはいえ非常にかさばります。まずは、炭酸飲料を作る際に高圧をかけてシリンダーのように圧縮する方法があります。専用の高圧タンクを用意し、45MPaなどの高圧条件下で保管します。
燃料電池車(FCV)を開発するトヨタは、70メガパスカルの圧力に耐えられる樹脂製の高圧水素タンクを開発している。
もう一つの方法は、マイナス253℃まで冷却して液体水素を作り、特殊な断熱タンクで貯蔵・輸送する方法です。海外から天然ガスを輸入する際のLNG(液化天然ガス)と同様に、水素は輸送中に液化するため、気体状態の800分の1に体積が減少します。2020年には世界初の液体水素運搬船を完成させました。しかし、この方法は冷却に多くのエネルギーを必要とするため、燃料電池車には適していません。
このようにタンクに貯蔵して輸送する方法もありますが、その他の水素貯蔵方法も開発しています。
貯蔵方法は水素吸蔵合金を用いることです。水素は金属を透過して劣化させる性質があります。これは1960年代にアメリカで開発された開発技術です。JJライリーらは、マグネシウムとバナジウムの合金を用いることで水素を貯蔵・放出できることを実験で示しました。
その後、パラジウムのように体積の935倍の水素を吸収できる物質の開発に成功しました。
この合金を使用する利点は、水素漏洩事故(主に爆発事故)を防止できることです。そのため、安全に保管・輸送できます。しかし、注意を怠り、不適切な環境に放置すると、水素吸蔵合金は時間の経過とともに水素ガスを放出する可能性があります。小さな火花でも爆発事故を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
また、水素の吸収と放出を繰り返すと脆くなり、水素吸収率が低下するという欠点もあります。
もう一つは、パイプを使う方法です。パイプの脆化を防ぐため、非圧縮・低圧という条件はありますが、既存のガス管を利用できるという利点があります。晴海FLAGでは、東京ガスが都市ガスパイプラインを利用して燃料電池に水素を供給する工事を行いました。
水素エネルギーが創る未来社会
最後に、水素が社会で果たせる役割について考えてみましょう。
さらに重要なのは、炭素排出のない社会を推進したいということであり、水素を熱エネルギーとしてではなく、電気エネルギーとして利用します。
大規模な火力発電所の代わりに、天然ガスを改質して得られる水素を利用して必要な電力を生成するエネファームなどのシステムを導入している家庭もあります。しかし、改質プロセスで発生する副産物をどうするかという問題は依然として残っています。
将来的には、水素ステーションの増加など、水素自体の循環が広がれば、二酸化炭素を排出せずに電気を使うことが可能になります。電気は当然グリーン水素を作るので、太陽光や風力で発電した電気を使います。電気分解に使う電力は、発電量を抑えたり、自然エネルギーで余剰電力がある時に蓄電池を充電するための電力にすればいいのです。つまり、水素が蓄電池と同じ位置づけになるわけです。そうなれば、最終的には火力発電を減らすことも可能になるでしょう。自動車から内燃機関が消える日も、もうすぐそこまで来ているのです。
水素は別のルートでも入手できます。実際、水素は苛性ソーダ製造の副産物です。特に、製鉄におけるコークス製造の副産物です。この水素を配給網に組み込めば、複数の供給源を確保できます。このようにして生成された水素ガスは、水素ステーションからも供給されています。
さらに未来を見据えてみましょう。電線を使って電力を供給する送電方法では、エネルギーロスが問題となります。そのため、将来的には、炭酸飲料を作る際に使用する炭酸タンクのように、パイプラインで運ばれてくる水素を活用し、各家庭に水素タンクを設置して各家庭の電気を自給自足するようになるかもしれません。水素電池で動くモバイル機器も普及しつつあります。そんな未来が来るのが楽しみです。
投稿日時: 2023年6月8日